秋学期がはじまりました

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こんにちは。写真は近所にある(といっても車で10分くらい)Sushinadoという、寿司などを売っている日本料理のお店で買った巻き寿司です。ブログって何か写真を載せるものだと聞いたことがあるんですけど、あまりに写真を撮る習慣がなさすぎて、これくらいしかありませんでした。意外と美味しかったです。ちなみにこれで12ドルくらいです。



今週からいよいよ本番の秋学期が始まっています。

なんとか秋学期が始まる前に家を見つけることができました。大学のシャトルバス(無料)を使って10分ほどというなかなかのアクセスの良さです。

ただ、些細かもしれませんが幾つか問題があって、早くも1年かそこらしたら引っ越そうかと考え始めています。まず、隣の部屋にまぁまぁの大家族が住んでいます。僕が確認した限りで、子どもが4人います。広さ的に日本でいう1LDK程度の広さなので、どうやって住んでるのか不思議でならないんですが、ともあれ彼らが非常に天真爛漫で、日中は彼らの物音が良いBGMになっています。

さらに厄介なのは彼らのような子ども目当てで、移動販売のアイスクリーム屋がしょっちゅう部屋のすぐ横にある駐車場に停まっています。ただ停まっているだけなら良いんですが、子供を呼び込むためかずっとBGMを大音量で流していて(日本でいう石焼き芋のような感覚)、非常にうるさいです。しかもこのトラック、夜の19時くらいまでBGMを流し続けるという見上げた商売魂です。
来るたびにBGMが変わっているのもまたちょっとムカつきます。耳が慣れないので。基本的に日本でも有名な童謡ばかりなんですが(「ピクニック」とか https://www.youtube.com/watch?v=uQHyD4ndTRU)、昨日はサザエさんのテーマを流していてビックリしました。オープニングの方です。時計を見ると18時30分ごろでした。



話を戻しますが、騒音の件は、日中研究室にいれば防げる話ではあるのでそれほど大きな問題ではありません。ただ、他にも幾つか細かい問題があります。例えば、次のような問題です。

・ベッドバグなどの虫がまぁまぁの頻度で出没する(虫に耐性のない方は調べない方がいいです)

・玄関とリビングのドアの立て付けが悪く、勢いをつけないと閉まらない

・ガスが無駄に四口コンロで、うち二口はPower burnerという”強火の更に上”が出せるという便利機能がついているにもかかわらず、Power burnerを使うと家の防火警報が鳴る、よって使えない

・すごくゴツくて真新しい換気扇がキッチンについているが、吸い込み力が貧弱。煙が換気扇から逃げていく

・バスルームのシャワーが、肌を撫でる程度の水の勢い



といったところです。先ほど言った通り致命的な問題ではありませんし、アメリカならこの程度は普通なのかもしれませんが、やはり日本の方が色々な意味で洗練されているなぁ、というのはこういう時に感じます。


話は変わりますが、ここで僕の通っているメリーランド大学について少し話そうかと思います。

以前も話した通り、メリーランド大学はメリーランド州の中心部に位置する州立大学で、DCエリアでは最も大規模な州立大学です(たぶん)。一応パブリックアイビーの一つに数えられていますが、細かいレベルやランキングなどにはあえて言及しないでおきます。評価軸も色々ありますし、分野によってレベル感もバラバラなので。ただ言えることは、メリーランド大学の中で比べると数学や経済学が強いようで、その影響か僕の通うビジネススクールも経済学系の教員が多いように思います(他の大学と比較していないので何とも言えませんが)。


規模がでかいというのは敷地面積的な意味でもそうですが、学生も非常に多いです。今年の新入生の総数は40,521人、うち学部生が29,868人、大学院生が10,653人だそうです。日本で最も大規模な大学の一つである早稲田大学の”総”学生数が約50,000人だそうですので、新入生だけで早稲田の学生の8割程度の規模ということになります。


次に留学生についてですが、大学院だけに絞ってみると、10,653人の新入生のうち留学生は3,623人で、約3割程度が留学生です。彼らはいったいどの国からやってきているのでしょうか。1位は想像に難くないと思いますが、ここでは上位3カ国を発表したいと思います。


まず、1位は当然ながら、中国(42%)です。3割の留学生のうちの4割が中国の学生なので、実際では全体の12%ほどということになりますが、絶対もっといるだろうと感じさせるくらい、大学には中国の学生が非常に多いです。僕の周りの学生たちについてしか知りませんが、大学院では中国の北京大学や清華大学といったトップ校の大学院に通っていたけど、その後アメリカに留学したという学生がちらほらいます。
彼ら・彼女らは非常に親切で、寛容な人たちばかりです。同学科の一個上の学年であるGavin(アメリカにいる中国の学生は英語名を使うことが多いです)という学生は、AoMで仲良くなって以降特に親切に接してくれており、数学や統計学にも非常に強いので、時折授業の相談に乗ってもらったりしています。



2位も予想通りだと思いますが、インド(18.7%)です。僕の周りにはインド人はいませんが、確かに大学を歩いていると、それらしい学生の集団を見ることがあります。彼らはビジネススクールというより、コンピュータサイエンスなどの理系の学科に多いのかもしれません。ただの予想ですが。



そして3位は韓国(3.7%)です。最初はちょっと意外だったのですが、確かに僕の学科内にも少なくとも3人、韓国人の学生(全員女の子)がいます。韓国は人口で見れば日本の半分以下なのですが、それでもうちの大学の留学生比率の3位につけています。このブログでも何度か言っているように容易に一般化はしたくないのですが、この結果を見ると「中国は人口が多いから仕方ない」とか言ってられる状況でもないように思います。
そして、これは誇張ではありませんが、僕の存在を本当に珍しがられます。日本人自体は珍しいけど、日本の歴史やポップカルチャーに興味があるという学生は結構いるので、結構いろいろ話しかけられるのは嬉しいのですが、嬉しい反面ちょっと悔しい気持ちも正直あります。



さて、入学に際して厳しい審査があったことは勿論なのですが、それでも新入生のレベル感や何をどの程度学んできたのかというアカデミックなバックグラウンド、年齢や社会人経験の有無などは本当にバラバラです。だからこそ、ということなのかは分かりませんが、どのような学生が来ても適切な教育ができるようなビジネススクールの環境やコースワークなどが、かなりしっかり整備されているなぁ、というのがこの1カ月での純粋な感想です。


まず僕が驚いたのは、研究倫理のオンライントレーニングです。日本の大学院にいたころにも勿論ありましたが、正直に言ってかなり適当だったように思います。反面、こちらのトレーニングでは膨大な資料を読まされ、問題を解いて、8割以上の正答率を保持しないと合格できません。勿論、やり直しもできますし、それほど難しいわけではないのですが、悪く言えば「面倒」、良く言えば「研究倫理に対する意識の高さ」をこのトレーニングを通じて感じました。



それから、これはビジネススクールだからこそだと思いますが、使えるデータベースの幅が広いのにも驚きました。企業の財務情報でいうと、代表的なのはCompustatやCRSPなどがあると思いますが、ある側面に特化した(例えばM&AやVCの情報など)データベースなども幅広く使え、学生がやりたい研究テーマの幅に対応しうるだけのものが利用できるようになっていると思います。ただ、これは単純に財力の問題ということでもあり、「金を稼げる大学(ビジネススクール)がますます研究成果を挙げやすくなる」という図式を反映しているとも思うので、多少複雑ではありますが。



次に、授業についてです。今学期僕が受けることになっている授業は4つあります。

一つ目はEconometricsの授業です。これは週に二回と、一回のTAセッションの授業があります。ビジネススクールの学生でも、Econometricsの授業を受けるのは必須になっています。ただ、ビジネススクールで授業が行われるわけではなく、他の学科に受けに行きます。通常は農業経済学部で開かれている授業を受けに行くのですが、やや実践的過ぎると感じたので、経済学科の授業を受けることにしました。最近は、マトリクスをひっくり返す作業に明け暮れています。


二つ目と三つ目は、Organization BehaviorとStarategic ManagementのResearch Methodの授業です。うちのビジネススクールではOBとSMは比較的セットにされることが多く、お互いがお互いの授業を受けたりします。秋学期の前半はOBの方法論の授業です。


これも驚きの一つなのですが、僕の中でOBといえば社会学ベースのものを目にすることが多かったのですが、こっちのOBはほぼ100%心理学です。思えば、AoMでも心理学ベースに比べて社会学ベースのセッションはかなり少なかったように感じます。日本ではどちらかというと逆のイメージだったので、これは結構意外でした。おそらく、(アメリカの)経営学が実証主義に移行していくなかで、社会学よりも心理学の方が親和性が高かったからだろうと想像しています。


*ちなみに、僕は組織論に全然詳しくありませんので、上で言ったことはかなり間違っている可能性があります。


実はいま、このOBの方法論の授業の課題として、実験研究のReplication Studyをやらされています。実際に実験をデザインして、参加者が読むシナリオや質問項目を書いて、参加者を募って実験データを集め、クロンバックのα(僕の知る最大限の知識)を計算したりしてデータの分析をして、論文を仕上げます。僕のことをよくご存じの大学院の方なら、僕が心理学ベースの実験研究をやっているのが意外でならないかと思いますが、僕も意外です。でも全く知らないフィールドの研究だけに、これはこれで結構楽しいです。三つ目のSMの方法論の授業は秋学期の後半なので、まだどういう授業かわかっていません。


最後に四つ目は、Formal Modelingの授業です。Industrial evolution関連の論文を読みながら、Modelingを使った研究についての理解を深める授業です。これは僕のアドバイザーになってくださる先生の授業なのですが、正直これが一番しんどいです。Modelingは確かにずっと学びたいとかねがね思っていたので絶好の機会ではあるのですが、Econometricsよりもはるかに理解に時間がかかっています。とはいえ、非常にやりがいのある授業でもあるので、今後の授業が楽しみでもあります。




これらを見てわかる通り、すべて方法論や論文を読む力、あるいは統計などの基本的なスキルに関する授業ばかりです。しかも、心理学からModelingまで幅広く一通りの知識のインプットを、一年目で学生に与えるようになっています。ちなみにこれは僕が選択したわけではなく、強制的に受けさせられるものです。


翻って僕が日本にいたころのことを考えると、これらの点は明らかに僕が日本にいたころにはなかったものでした。僕の経験上ですが、こういった訓練の大部分は、指導教員に丸投げされているように感じました。ですので、どの先生のもとに就くかで、大幅にインプットのレベルが変わってしまいます。深い知識は身に着くのかもしれませんが、非常に狭い範囲での知識です。その点、こちらのコースワークでは、学生の興味が固まっていようがいまいが、一通りのツールにまず触れさせようという考えです。そして、より特定の分野での最新の研究を追いながら専門的な訓練を受けるというのは、二年目に行われます。


これは、逆に言えば、入学時点で明確に興味の範囲が決まっており、そこを徹底的に極めたいと考えている人にとっては、アメリカの大学のコースワークはややきついのかもしれません。自分の(現時点での)関心とは違うかもしれないけど、色々な知識に触れてみたいという知的好奇心の高い人にとっては、非常にやりがいがあるのではないかと思います。



最後に、先ほど述べた留学生の質という話でいうと、アメリカの大学に来ている大学院生が日本の大学院生に比べて格段に優秀であるということは、(少なくともスタート時点では)絶対にないと思います。では何が違うかというと、大学院で受ける訓練の種類が違うんだろうな、と思います。というか、むしろ”それだけ”なんじゃないか、という気もしています。


先ほど言ったように、日本の大学院は指導教員に極めて依存した教育体質になっているように思います。確かに、指導教員との密接な関係性は、研究をスムーズに進めていくうえでも、専門的な暗黙知を身に着けるうえでも重要です。あるいは、これは何とも言えないのですが、政治的な意味(人脈)でも重要です。(ちなみに、アメリカの大学院で指導教員との関連が薄いというわけではありません。現に、うちのビジネススクールは学生と教員の距離はかなり近いそうです)。
他方で、先ほど言ったように、知識の幅が極めて限定的なものになってしまうリスクや、あるいは先生によっては半ばobsoleteしている研究を突き詰めることになる、といったリスクもあります。


アメリカの大学院は、大学院教育におけるコースワークは非常に重要な位置を占めているように感じます。極端なことを言えば、コースワークをしっかりこなせば、優秀ではない学生でも、きちんとした研究(面白い研究かどうかは分かりません)ができる研究者になれるような仕組みになっていると思います。ただ、裏を返せば、コースワークを怠けていたり、主体的に学ぶ意欲の低い学生に対しては、指導教員が目にかけることはないでしょうし、そういう学生は勝手にドロップアウトしていきます。



ここまで述べてきたのはあくまで現時点でのイメージと感想です。まだ学期が始まったばかりで、このイメージが覆されるようなことが起こるかもしれませんし、何より当面は、コースワークで落第することのないよう、マトリクスをゴリゴリ転置させる作業に従事しなければなりません。それでも、僕は常々、どこかで俯瞰的に物事を見ることが好きな人間なので、上で言ったようなことも意識しながらコースワークをこなしていきたいと思っています。


話は変わりますが、うちの大学は秋学期が終われば春学期まで一カ月ほど休みがあるそうです。今更知りました。もしかしたら、日本に戻るかもしれません。何か進展があれば、またご報告します。それでは、また。