Academy of Managementへの参加

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8月10日から、世界最大規模の経営学系の国際学会であるAcademy of Management (AoM) Annual Meetingに参加するため、シカゴに来ました。


シカゴには初めて来たんですが、この都市はなんかもう凄いですね。ニューヨークには行ったことがあるんですが、かなりゴミゴミしてうるさくて散らかっている印象だったんですけど、シカゴはもっと洗練されている感じがします。イメージとしては、ニューヨークは新宿の進化系で、シカゴは銀座の進化系って感じです。あと、「WATCH DOGS」というゲームのシカゴの再現度はすごいと思いました。
中心街にはかなりの数の高層ビルが立ち並んでいます。ビルも高いですが、物価も高いです。僕が泊っているダウンタウンのホテルは安く抑えられた方だと思いますが、それでも一泊200ドルです。一歩間違えれば300, 400ドルもザラだそうです。大学からのreimbursementがあるだろうからと思って軽い気持ちでホテルをおさえたのですが、最近reimbursementには限度額があったことを知って青ざめています。当然と言えば当然なんですが。
余談ですが、このreimbursementには限度額があるものの、発表をしない学会参加でも旅費が出ますし、飛行機に限らずタクシーを使おうがUBERを使おうが何でもOKというので、ここらへんはさすがアメリカの大学だなぁ、という感じでした。



さて、肝心の学会なのですが、AoMには初めて参加したのですが、これまで参加してきた国内・国際学会とはレベルが違います。レベルというのは質ではなく、量のことです。まず、今回のAoMの会場は5つのホテルに行われており、それぞれのホテルでは20~30くらいの会議室で同時進行でセッションが行われています。
僕が見た限りですが、最も多いときで同じ時間帯に122個のセッションが同時進行で行われていました。マジです。話によると、参加者は1万人を優に超えるそうです。



これほど大規模な学会は、一体どのように統制されているのでしょうか(果たして適切に”統制”されているのか、という問題は置いておきます)。まず、AoMにはdivisionと呼ばれる分科会のようなものがあります。これは、どういった領域の研究を行っている集団なのかという大まかな区画であり、Strategy (STR)、Organization Behavior (OB)、Technology and Innovation Management (TIM)、Research Methods (RM)など46のDivisionがあります。参加者はいずれかのDivisionに所属することができ(複数所属可)、Divisionごとにセッションが開かれます。Divisionをまたがって開催されるセッション(Co-sponsorship)も勿論あります。例えば、「Desigining Innovative Firms: Taking Stock and Future Research Opportunities」というセッションは、Strategy(STR)とTechnology and Innovation Management(TIM)とOrganization and Management Theory(OMT)のCo-sponsorセッションです。参加者はDivisionベースでセッションを検索できますし、Social PartyやAwardなどもDivisionごとにあります。学会運営に必要な資金調達も部分的には(?)Divisionごとに行っているようです。それぞれのDivisionが一つのサブ学会で、サブ学会が寄り集まってAoMを形成していると考えた方がいいかもしれません。
これも余談ですが、AoMにはモバイルアプリがあって、アプリ上でセッションを検索したり、自分なりのスケジュールを作成したり、会場を調べたりすることができます。これがかなり便利で、これだけ大きい学会なのだからある意味アプリがあって当然なのかもしれませんが、なぜだか少し感動しました。



僕はSTRやTIMのDivisionを中心にセッションを巡っていたのですが、個人的にはHistorical MethodsセッションとIndustrial Evolutionのセッション(共にSTR)が非常に良かったです。

日本では先日コミケが開催されていたみたいで、僕の友人の漫画家がやっているTwitterなんかを見ていると、今まで漫画やSNSでしか存在を知らなかった漫画家が実在することをコミケで確認して感動する、みたいなのがあるらしいのですが、
それと全く同様に、紙の上(論文)でしか存在を知らなかった人たちが、どうやら実在しているらしいことを確認することができました。Historical Methodsの方はSilvermanやShapiraやArgyrys、Industrial Evolutionの方ではSuarezやThompsonといった面々が実在していました。彼らの口から何がどこまでわかっていて、今後どういう研究が必要か、という話を直接聞けるのは非常に刺激的でした。あと話しぶりから何となく性格みたいなのが伝わってきて、論文を読んでいてもわからない”オモシロおっさん”ぶりを発見できるのもなかなか楽しいです。



学会全体を通しての所感なんですが、まず一つは、さんざん言われていることだけれども、学問の世界でもアメリカでは多様性が担保されているんだなぁということと、もう一つは多様性は規模の関数なんだなぁということです(AoMはあくまで国際学会であり、STR部門も7割は海外からの投稿ということで、これを以て”アメリカの”という論調をするのはあまり良くないとは思いますが)。


僕が日本にいるときは、「アメリカの経営学は短絡的な定量研究に傾倒しすぎている」といった論調がよくなされており、僕も少なからずそうだと思っていました。ただ、実際にAoMの様子などを見てみると、それはある一側面を切り取った主張にすぎないことに気づきます。経営学は経済学・社会学・心理学にそれぞれ系譜があると言われていますが、それぞれのディシプリンがきちんとポジションを持っており、一定規模のコミュニティがあり、多くのセッションが開かれています。それぞれのディシプリンをブリッジングしようとするセッションや研究者も沢山いました。
メソッドも、思っていたよりもずっと多様です。Research Methodのセッションにも行ってみたのですが、ラジオ放送で流れる音楽を使った研究や、映画やドラマでの会話の内容を使った研究など新しい方法を模索しようとしていて、これもなかなか面白かったです。



アメリカの経営学をむやみに賛美したいわけでもありませんし、”多様性”という言葉も正直あまり好きではなかったのですが、現実としてこれほどまでに”学問の多様性”を目の当たりにしたときに、日本の経営学(経営学に限らずですが)が今後どうすべきかは真剣に考えた方が良いのではないかと思いました。僕が今回強く感じたのは、多様性は規模に支えられているという当たり前の事実でした。規模、というのは金銭的な意味ももちろんありますが、ここではむしろ研究者の供給という側面を強調しています。”一見すると”重箱の隅のような枝葉の領域も、たいていは一定数の研究者がいて、そこでコミュニケーションがあって、お互いに切磋琢磨できるからこそ枝葉として存在しうるのだと思います。そしてそれだけの枝葉を刈り取らずに残しておくためには、その背後に、充分な量の(まともな)研究者の供給がないといけないでしょう。


規模の関数だというとなんだか元も子もないような気がしますが、規模がなくてもできることはあると思います。僕は所詮一介の大学院生ですし、学問の世界にそれほど長く身を置いているわけでもないので、決して充分に把握しているわけではありませんが、それでも僕が日本にいたときに感じていたのは、”群れる”傾向です。一般的な言葉でいうと、”学閥”というのがそれに近いかもしれません。恐らく他分野と比べると(どこかは存じませんが)比較的マシな方だとは思うのですが、それでも学会などでも同じゼミ出身だとか同じ大学出身だとかでとにかく固まる傾向があることを強く感じて、少し気持ち悪さを覚えた記憶があります。かくいう自分も出身大学の先輩や先生方とばかり話していたので、決して他人のことを言える立場ではありません。ですが、それでも大学間をつなげようとする人や、もっと重要な異なるディシプリンや研究手法をつなげようとする人をほとんど見たことがありませんでした。むしろ、定性研究が定量研究者を揶揄し、定量研究者が定性研究者を蔑むという本当に非生産的でロクでもないことに努力投入をする人が多かったように感じます(これは決して特定の人物を意識しているわけではなく、全体的な傾向というか雰囲気を示していると考えてもらえればと思います)。


何が言いたいかというと、これは学問に限ったことではありませんが、自分が築いてきた知識とか経験とかネットワークとかを守ろう守ろうという方向に力が働くと、外部から流れ込んでくるものを排除しようという意識が芽生えて、そうなると研究者としても人間としても”豊か”ではなくなっていくんだろうなぁ、ということを思った次第です。そして、そういう人ばかりが大半を占めるような領域は、遅かれ早かれ衰退していくんだろうなぁ、と。これがいわゆる”大御所”と呼ばれるような偉大な先生方ならいざ知らず、比較的若手の先生や大学院生においてもこのような傾向を感じることがあり、自戒を込めてあえてここで書きました。




思いのほか長々と書いてしまいましたが、これだけは強調しておきますが、僕はあまり(本流の)経営学が好きではありませんし、それほど興味もありません。ですが、経営学を含めた科学研究がどうあるべきかとか、大学がどうあるべきかとかを考えるのは結構好きですし、興味もあります。これは半分後付けですが、留学をする一つの目的として、こういう点での一つの模範としてアメリカのビジネススクールを見てみたかったというのがあります。しかも、僕が通うメリーランド大学は州立大学であり、その財政の多大な部分を寄付金で支えられている私立大学よりかは日本の大学に近い部分があるのではないかと思っています(ここらへんはまだ無知なので、ただのイメージです。実際はどうかわかりません)。


コースワークをこなしたり自分の研究を進めるのももちろんですが、こういう部分も学びながら今後の留学生活を送れれば良いなと思います。次回は何書くか考えてませんが、本格的にコースワークが始まる前に留学に至る経緯や出願の時のことを書ければいいかな、と思ってます。それでは、また。