ビジネススクールの海外PhD留学への出願③

凡そ一年前に、タイトルの内容について書いていて、第三弾を書かなければと思いつつ全然書けていなくて、気づいたら一年経っていました。どうにも習慣づけることができない。ともあれ、過去二回で簡単にしか触れられなかったビジネススクールとアドバイザーの選び方について、僕の体験を踏まえて簡単にお話しできればと思います。

 

何度も言うようですが、PhD留学をするうえでどのようにスクールを選ぶか、といった問題は分野によって異なるだけでなく、一人ひとりの目標や目的によって異なることは言うまでもありません。例えば、「大学ランキングで凡そ〇位以上の大学でなければ、留学をする意味はない」といった言説を耳にしたことがあります。僕はこういった考えを否定する気はありませんが、決して好きな考え方ではないし、良いアドバイスだとも思いません。むしろ、そうやって留学へのハードルを上げることによって留学に臆してしまう人が増えるという負の要素が大きいと思います。大学ランキングが重要な指標の一つであることは間違いないと思いますが、それをある種選択集合を規定するための手段として用いたり、「自分の今いる大学より低いランクの大学に行く意味はない」といったような思考はあまり良い方法だとは思いません。

 

特に北米ビジネススクールへのPhD留学を考える人にとっては、特に大学ランキング以外の要因をしっかり調べることが重要であると思います。その理由は、大きく分けて三つあります。

一つは、個々の学部の質と大学全体の質は全く別物であるという点です。どの大学ランキングをとってもTOP10に入るような大学なら別かもしれませんが、世界にあるほとんどの大学はそうではない訳で、そういった大学においてはやはり”強い”学部と”弱い”学部が存在します。また、どのようにスクールの質を測るのか、といった問題も勿論あります。PhD課程において最も重要なことは、やはり何においても人材、すなわち教員の質だと思います。例えば、僕の所属するメリーランド大学スミススクールは、教員の研究能力で見たランキングにおいて北米第5位です(TAMUGA Rankings - Rankings)。しかし、Times Higher Educationにおける全学部の総合ランキングでは77位(2021年時点)です。また、隣の経済学に関して言えば、US Newsのランキングで21位です(Best Economics Schools - Top Social Sciences - US News Rankings)。このように、領域によってランクには大きなばらつきがあります。また、仮に自分の目指す領域におけるランクが高い大学であったとしても、そこに留学して自分が必ず満足できるとは限りません。それには、以下で挙げるような理由が影響してきます。

 

二点目は、コースワークの内容がスクールによって異なることが往々にしてあるということです。これは、例えば隣接の経済学などでは起こりにくい問題です。経済学では、例えばミクロ・マクロ・エコノメというように”柱”があって、それらの基本をしっかり身に着けたうえで応用・発展領域までカバーする、といったステップを踏んでいくものと思われます。それぞれの領域には定番とされる教科書(ミクロならMasCollel、エコノメならGreeneとかWooldledgeとか)があり、授業の内容もかなりの程度標準化されています。ビジネススクールの多くの領域では、残念ながらこのようなことがありません。例えば僕が専攻するStrategic Managementは大きくEconomicsベースの流派とSociologyベースの流派がありますが、両方の流派の教員がバランスよく揃っているとは限りません。むしろ、僕の認識では、スクールによって偏りがあり、そしてその偏りがある種スクールのアイデンティティというかカラーになっている節があります。

僕のスクールに関して言えば、Econometricsを含めた社会科学的方法論全般に詳しい教員が多く、それがスクールのカラーになっていると思います。実際、2年間のコースワークのなかで、方法論に関する授業を4つも取らされました。僕はこのカラーに非常に満足していますが、実は留学前にはこういったカラーがあることを認識していませんでした。こういった情報は大学ランキングなど数値的な指標には決して現れてこないので、自分のアドバイザーになってほしい教員のみならず、どのような教員がスクールに在籍しているのかを事前にしっかり調べておくことは重要だと思います。

 

最後に、やはりアドバイザーの問題です。ビジネススクールの場合、指導を受けたい教員が予め決まっている状態でスクールを選ぶことが多いのではないかと思います。なので、スクールを選ぶ、というよりアドバイザーを選ぶ結果として志望校が決まる、といった表現の方が適切かもしれません。これは、二点目とも関連するように、どのような学修・研究ができるかはどのような教員がいるかに完全に依存するからです。勿論ほとんどの先生は、多少関心の齟齬があったとしても柔軟に対応してくれることと思いますが、やはり自分が追究したテーマをしっかり突き詰めたいと考えるのであれば、フィットの高い教員がいるスクールを目指すことは重要です。これはひいては、Statement of Purposeなどで自分とスクールとのフィットをアピールするうえでも重要になると思いますし、事前に教員とコンタクトをとってスクール選びの材料にするうえでも重要です。

 

 

ここまで述べてきたように、自分に合うビジネススクールを選ぶことは決して簡単なことではないと思います。僕の場合はどうだったかというと、正直に言って自分自身慎重にスクールを選んだとは思っていません。面倒くさがりな性格のせいで、留学したいという思いは強いけれども、実際のスクールの探索はちっとも手につかない、といった状態でした。どうしてもこの人の元で学びたい、という強い思いがあったわけではなかったので、基本的には自分が過去に読んできた論文や自分の研究に引用した論文の中でとりわけお気に入りの論文を引っ張り出して、その著者が所属する大学を順番に調べる、といったステップを踏みました。また、自分が好きなジャーナルのEditorを上から順番に調べる、といったこともしたような記憶があります。

こうしたステップの結果、最終的に7人(7校)に候補が絞られ、そのうち3校からオファーをもらうことができました。そのうちの一つであるメリーランドにこうして今在籍しているのですが、現在のメインの指導教官は、実はその時に選んだ先生とは違う先生です。そういった意味で僕の留学は巡りあわせというかギャンブル要素が強かったような気がしています。結果として僕は今の環境に非常に満足しているのですが、それは偶々で、「何でここにきてしまったんだ」という思いを抱いてしまう可能性も十分にあったと思います。だからこそ、ビジネススクール選びは慎重に行うべきだと感じます。

 

非常に簡単にですが、ビジネススクールPhDのスクール・アドバイザー選びについてお話ししました。この記事を読んでくれた方のスクール選びに少しでも役に立てば幸いです。それでは、また。