ビジネススクールの海外PhD留学への出願②

かなり久々の更新になります。前回(約3ヶ月前)、出願を考えるタイミングについてお話ししましたが、今回は実際に出願するうえで必要な書類等について書きたいと思います。


改めて言っておくと、僕がブログを通じてこういったことを書こうと思ったのは、将来経営学系でPhD留学をしてみようかな、と考えている人にとって、少しでも有益な情報を提供できれば、と思ったからです。お隣の経済学では、東大経済を中心として将来的にPhD留学を目指している大学院生の方は沢山いらっしゃるそうですし、米国などのトップスクールに入学する学生も増えていると聞きます。それに比べて、経営学系でPhD留学を目指す学生は極めて少ないです(そもそも経営学の博士課程に進む学生があんまりいませんが)。僕は主流派経営学からは逸れたところにいるので、経営学にそれほど愛着があるわけではありませんが、それでも自分が所属する領域に元気がないのは見ていて気分が良いものではありません。

大手を振って”海外の経営学の方が進んでいる”、と言うつもりはありませんが、本来学問は国際的なものであるべきで、自国のなかでしか知識が蓄積されない、いわゆる”ガラパゴス化”してしまうのは、学問として健全ではないと思います。ですので、経営学の博士課程に進もうと考えている、あるいは現在博士課程で学んでいる方には、ぜひとも留学を選択肢の一つとして考えてもらえればと思っています。

朗報なのは、先ほど引き合いに出した経済学などと比べて、ビジネススクールの競争はそれほど激しくないことです(根拠はありませんが)。海外の学生の方がレベルが高いかと言うと決してそんなことはなく、僕が知る限りでは日本の学生も全然負けていない、何なら平均点で言ったら日本の学生の方が高いんじゃないかと思うほどです。最大の障壁はおそらく英語でしょうが、逆に言えばそれさえ克服できれば(これは技術的な克服というよりも心理的な克服です)、チャンスは大いにあると思います。



さて、話を戻しますが、ビジネススクールのPhD出願において必要な書類は、大きく分けて四種類あるかと思います。


・Online application、resume/CV (curriculum vitae)

いわゆる出願する本人自身についての基本的な情報です。これはほとんど説明する必要もないかと思いますが、resume/CVはきちんと一般的なフォーマットに基づいたものにする必要はあるかと思います。CVに関連して、「過去の業績 (publicationなど)は合否に影響するか」という問題がありますが、業績があってプラスになることはあっても、業績がないからといってマイナスになることはないと思います。こと経営学、なかでも戦略論や組織論は、短期間で業績を出すのが比較的難しい領域であることはfacultyもわかっていますし、それをPhD入学時点で求めるということはほとんどないと言っていいと思います。ただ勿論、既に(質の高い)業績を出している人がもしいたとすれば、その人は将来的にも良いところに就職する可能性が高いので(つまりスクールにとってプラス)、アドバンテージが生まれやすい部分もあるんじゃないかと思います。


・Test scores

英語非ネイティブにとっての鬼門はやはりここだと思います。僕も、思い返したくもないほどTOEFLに苦しみました。ほぼすべての英語圏のスクールが語学テスト(TOEFL/IELTS)及び一般教養試験(GRE/GMAT)のスコアを求めています。これについてはビジネススクールに限らないので、参考書や予備校、ウェブサイトなど様々な情報源がありますので、あえて僕が解説することでもないと思います。

単純に僕の経験を話しておくと、僕はTOEFLに本当に苦しんだ人間の一人で、数えてはいませんが恐らく10回以上受験しました(ちなみに受験料は一回25,000ほどです)。今思えば、予備校などに通わず独学で乗り切ろうと思ったのが全ての間違いだったのだと思います(勿論これは個人差がありますし、数回で満足いく結果を出せる人も大勢いることと思います)。他方でGREについては、数学が得意だったこともあり、勉強期間も1ヵ月ほどで、試験も2回目で十分なスコアを得ることができました(英語は6割5分くらい、数学は満点だったと記憶しています)。ただGREの英語は、TOEFLやIELTSの勉強の延長で乗り切れる部分と、乗り切れない部分があると思うので、早めに準備を始めることを意識したほうが良いかと思います。

僕からできるTest scoreについての最大のアドバイスは、とにかく準備を後ろ倒しにしないことだと思います。巷の参考書など様々な情報媒体には、「出願までのスケジュール」「何ヶ月前から準備すべきか」、といった情報は溢れていますが、鵜呑みにするのは危険です。そのスケジュール通りに期待されたスコアをあなたが取ることができる保証はありません。僕も自分の力を過信するあまり、TOEFLで期待のスコアが全然取れず(99点を3回連続で取った時は泣きたくなりました)、結果出願までに2年かかってしまいました。まずは一回受験してみることが大事で、いまの自分の実力と求められているスコアの距離感を測る、と言うのをなるべく早くやることが重要だと思います。


・Research Proposal, Statement of Purpose, Writing Sample等

大学によって求めるエッセイの種類は異なる可能性がありますが、Research ProposalとStatement of Purposeは大体求められるのではないかと思います。前者は自分がそのスクールでどんな研究をしたいかということで、後者はなぜそのスクールに入りたいか、と言ったことに関するエッセイです。単に出願者が優秀であるかどうか(研究とは何かを”分かっている”かどうか)だけでなく、出願者とスクールとのフィットを考えるうえで非常に大きな判断要素になります。

基本的に出願するスクールは複数になるかと思いますが、Research Proposalに関しては、同じ研究テーマであっても、ある程度スクールごとに書き分けた方がいいと思います。スクールごとにカラーが異なることがありますし、どういう文献を引用するかとか、どういう角度で分析したいかという部分で、スクールとフィットしそうかどうかという印象が大きく左右されるからです。また、これは次の記事で詳しく書こうと思いますが、出願の際には指導を請いたいアドバイザーが決まっている場合と決まっていない場合があるかと思いますが、個人的には決まっていた方が良いかと思います。これは、事前にそのアドバイザーとコンタクトをとることが重要であるということもありますし、単純にProposalやStatement of Purposeでフィットをアピールしやすいからです。

なお、最後に書いてあるWriting sampleについてですが、これはスクールによって求めるところとそうでないところがあるかと思います。あるいは、Research proposalの代わりにWriting sampleを求めるところもあります。僕は、自分の修士論文を英訳したものを提出しました。Writing sampleは、academic writingの基礎がしっかり身についているかを評価されていると思うので、これも非常に重要です。アドバイスとしては、Test scoreの時と同様ですが、間違っても自分の英語力を信用しないでください。個人的には、writingが一番英語の実力が出るのではないかと思っています。英語にはparaphraseやcolocationなど日本語にはない独特の作法があり、日ごろから論文などのformal writingに使われる表現に慣れ親しんで、また自分でも書く訓練を積んでいなければ、結構ハードルが高いと思います。Writingに関しては僕もまだまだ全然ダメで、しょっちゅうアドバイザーに直されています。


最後に、これは言うまでもないことかもしれませんが、これらのエッセイは絶対に、Writingに長けた誰かに事前に校閲をしてもらうべきです。また、引用する文献の著者の名前を間違えるなどのミスは最大の無礼にあたるので、自分自身でも何十回も推敲して、無用な理由で不合格になることのないようにしましょう。


・Recommendation Letters

何だかんだ言っても、究極的にはこれが一番重要だと思います。僕の場合も、Letterを書いていただいた先生のお力添えが決定打になったのは間違いないと思います。学問の世界も、結局コネクションが重要になる部分は往々にしてあります。ただ勿論、推薦状を書いていただく先生にもリスクがあるので、その先生にある程度認めていただいてなければ、良い推薦状を書いてもらえる可能性も低くなるのは間違いありません。ほとんど繋がりもないような先生のところに押しかけて、推薦状だけ書いてくださいというのは極めて失礼な行為だと個人的には思いますので(それでも、喜んで書いてくださる素晴らしい先生も大勢いらっしゃいますが)、やはり留学を考えているのであれば、ある程度そういったことも視野に入れて先生方に戦略的にアピールすることは必要かもしれません。


かなり表面的な説明になってしまいましたが、出願に必要な書類の大まかな説明は以上になります(他にも細々した提出書類はあるかと思います)。繰り返しになりますが、留学準備は長期的な視野をもって計画することが大事だと思います。仕事や研究の合間の隙間時間でしか準備に時間を費やせない方もいらっしゃるでしょうし、仮に時間が費やせても、よほどの決意や使命感がなければ、モチベーションを長期的に保つことは難しいです。


ビジネススクールは留学を志向する学生が少ないと言いましたが、それは自分が留学しようと考えた時に、周りに同じことを考えている仲間がいる可能性が極めて低いことを意味します。すなわち、留学は準備の段階から、かなり長期にわたる孤独との闘いです。それでも、PhD留学にはそれだけの投資をする価値があることは間違いないと思いますし、日本の大学院だけでは見えなかった景色も沢山見えるようになります。最初の一歩さえ踏み出してしまえば、道は大きく開けます。このブログが、その一歩の支えになれれば本望です。


次回は、ビジネススクールとアドバイザーの選び方についてお話ししたいと思います。それでは、また。