PhD3年目~4年目とTeaching requirement

皆さんこんにちは。年の瀬にもなって今年初の投稿になります。またまた長い間ブログを放置していました。今年を簡単に振り返ると、今年(PhD3年目~4年目)は今まで以上に、というかこれまでのなかで一番忙しい一年だったように思います。当初は、がっつりコースワークを受けさせられる1,2年目が一番大変かと予想していたのですが、蓋を開けてみれば、求められることが明確だった1,2年目の方がラクだったようにも思います。

 

2021年の実績という形で活動を簡単に振り返ると、

  • アクセプトされた投稿論文が一本
  • ワーキングペーパーが二本、うち一本はReject & Resubmit
  • 学会発表が7件(!)
  • 夏学期中の学部生授業のTeaching
  • 未だ形になっていない進行中のプロジェクトが4本

といった感じで、僕の分野の基準で言えばまずまずだと思うのですが、今後はJob Market Paperに向けた新しいプロジェクトにも本格的に取り組まなければならなくなり、にもかかわらずカタがついていないプロジェクトが多すぎるので、来年度の上旬はまずこれらのプロジェクトに区切りをつける作業がメインになってくるかと思います。

 

学会発表については、こんなにやるつもりは全くなかったのですが、僕のスクールの若手の教員が、僕の学会でのexpositionを高めていこうとの”思いやり精神”から、AOMやSMSのみならずひたすら学会発表に僕らの共同研究を投稿していったため、このような結果となりました。結果としてはいい経験になったのですが、コロナ禍ですべてオンライン開催ということもあり、通常とは異なる形でのプレゼンテーションではありました。

 

さて、今回はタイトルにもあるように、Teachingについて話そうと思います。よく知られていることですが、北米のビジネススクールのPhD課程であれば、5年間のプログラムに関して授業料免除+給与といった形で生活の補助が出る場合が多い(殆ど?)と思います。しかし、勿論給与は給与なので、タダでもらえるわけではなく、通常はRAやTAといった形でアシスタントの形態をとります。僕のスクールでは、通常はRAという形で教員のもとでの研究補助に対して給与が支払われており、それにプラスしてプログラム中原則”二回”のTeachingを行う必要があります(僕の場合はFundingの形態が他の学生と異なっていたため、一回のTeachingで済みました)。これは、Teaching Assistantではなく、LecturerとしてのTeachingです。つまり、自分ひとりで授業の全体を設計する必要があるということです。

受け持つ授業については既に決まっており、学部3-4年生向けのStrategic Managementの授業です。毎学期開講されているコア科目であり、歴代の院生や若手教員が受け持ってきた授業なので、既に十分な知見の蓄積があり、基本的には過去の年度で使われたシラバス・授業資料(スライド)・課題などを受け継いで、それに沿って授業を行うことができます。しかしながら、受講する学生については当然初めての授業ですし、向こうも我々を一人の教員としてみてくるので(大学院生であることが分かっていても、向こうは僕らをProfessorと呼びます)、一定のクオリティ以上のものを提供しなければならない、というプレッシャーがあります。あまりにひどい授業になってしまうと、学生は容赦なく低いTeaching evaluationをつけてくるので、それは引いては僕たちにとってjob marketなどでの悪いシグナルにもなりえます。なので、相当量の準備時間と予行演習が必要でしたし、6月頭から約一か月ほどの短期集中講座だったのですが、その前一か月を含めた三か月くらいは何らかの形でTeachingに時間を奪われる状態が続きました。とりわけ、コロナ禍ですべての授業がオンラインで展開され、それについては多くの経験がスクールに蓄積されていない状態だったので、そういう意味では手探りで進めていかねばならない部分もあったように思います。

 

さて、実際の授業の中身ですが、先ほども言ったように通常のセメスター(3,4か月)と同等量の授業を夏学期の集中講座(約1か月)で行うデザインになっているので、通常とは異なり、1回3時間の授業が全12回という形になっていました。大体前半1時間半-2時間をlecture、後半部分をclass discussionという形です。Class discussionでは、毎授業課されたCase reading(基本的にHarvard Business Reviewのケーススタディに基づきます)について事前に課題をやってきてもらい、それに関連したテーマについてブレイクアウトルームを使ってディスカッションしてもらい、最後に全員で議論する、といった流れです。当たり前というか今更ですが、すべて英語です!単に、話す内容(台本)を考えて、それを淡々と話すだけなら英語でもそれほど苦ではありませんが、実際の授業では学生の質問や発言内容を受けてそれに返答したり、時間の進捗に合わせて議論の流れをコントロールしたりといった柔軟性が求められるので、それをすべて英語でやらなければならないというのはかなりのプレッシャーでした。

 

各講義回で扱う内容は以下の通りです。

1. Overview

2. Positioning view + Case: Target

3. RBV + Case: Disney

4. Generic strategy (Low-cost leadership vs. Differentiation) + Case: Trader Joe's

5. Innovation I (Life cycle, Patterns of innovation, Disruptive innovation etc.) + Case: Netflix

6. Innovation II (New entrants vs. Incumbents, Externality, Complementarity etc) + Case: Nintendo

7. Corporate strategy (Diversification, Alliance, M&A etc.) + Case: Google

8. Class recap session

9. Final exam

先ほど全12回と言いましたが、実際に講義自体は9回分で、残りのセッションは最終プレゼン課題のためのディスカッションに使われています。

大体スケジュールの流れをおさらいすると、以下のような感じになっていたかと思います。

 

  • 授業開始1か月前-2週間前まで

講義計画、シラバスの作成と授業で扱う論文・Case reading・教科書などの読み込み、講義資料(スライド)・課題・採点基準の作成など

  • 授業開始2週間前-開始まで

学生へのアナウンス、講義資料の完成と台本の作成、予行演習など

  • 第一回授業から最終試験まで

授業の実施、各課題の採点、オフィスアワー、学生への伝達等

  • 最終試験後

試験の採点、final grading、学生の苦情対応、Teaching evaluation等

 

非常に大まかにまとめるとこのような感じになります。やはり「授業開始1か月前-2週間前まで」の下準備に多大な労力を削られたと思うのですが、アメリカの学生の場合、成績や採点等に関してかなり敏感なので、最終試験後の採点やgradingにもかなり神経を使いました。実際、2,3人の学生から、最終試験後の採点に対するクレーム(のようなもの)が来ました。しかし、そのすべてが単なる我儘というか、合理性に欠くものに留まってたのは、かなり厳密に採点基準を明確化し、よほどのエラーでない限り採点の変更可能性が低いことを厳しく通達したことが功を奏したのかもしれません。

 

人生で初めて授業を行うこととなり、しかもそれがオンラインということで、初回は特にかなりの緊張がありましたし、始まる前からかなり憂鬱だったんですが、始まってみれば意外に、というかかなり楽しくて、学生が理解していることが分かると素直に嬉しいですし、一部の学生を除けば基本的に学生は皆素直で学ぶ意欲をきちんと見せてくれるので(中には、毎授業後のオフィスアワーで必ず質問しにくる子もいました)、そういう意味でもやり甲斐は非常にあったと思います。結果としてTeaching evaluationも留学生の中ではかなり良い方(3.7/4.0)でしたし、いい経験になったと思います。自分自身それほど戦略論ど真ん中の人間ではないので、そういった意味で授業をやることを通じて僕自身が学ぶものが多かったというのもプラスでした。

 

さて、今回は非常に簡単にTeaching requirementに話しましたが、再三言ってきたように、これはあくまで僕のスクールでの僕個人の経験であり、受け持つクラスの内容や学生の学年、授業形態や新規開講科目かどうか(これは結構重要)によって、難易度ややり方も大きく変わってくると思います。一つ言えるのは、僕を含めた多くの留学生にとってTeachingは大きなプレッシャーのかかる、できればあまりやりたくないことなのではないかと思いますが(実際僕も留学前に、前指導教官に「留学でTeachingが一番大変だった」と言われていました)、僕の場合はやってみたら思いのほか楽しかったし、やり甲斐も得られたものも非常に大きかったのではないかと思っています。勿論、すべてを英語でやらなければならないので、それを乗り切るだけの英語力と胆力、そして何より努力投入が必要とされます。それでも、留学を考える際に、Teaching requirementがあるからといってあまり尻込みせずに、前向きにとらえてもらえればきっと得られるものも多いんじゃないかと思います。それでは、また。