一年目春学期

一年目の夏休みも3分の2が終わりました。今日は、一年目の春学期にどんな授業を受けてきたかを、思い出しながらまとめたいと思います。春学期も秋学期と同様、本学では前半期(タームC)と後半期(タームD)に分かれており、片方のタームだけの授業もあれば、学期を通じて受ける授業もあります。


・Overview of Starategy & Entrepreneurship (3時間半×7回、タームC)
- Reading: 論文6~9本
- Assignment: readingをもとに研究アイディアのレジュメ
- Final exam or paper: readingをもとにしたプレゼンテーション(自由課題)

- 内容: 個人的に、一年を通じて一番良かった授業でした。具体的には、アドバイザーでもあるRajshree AgarwalとDavid Kirschという二人の教員による授業で、まず二人のバックグランドがeconomicsとsociologyなので、全く違った見地から同じテーマについて議論できるという点と、もう一つは、overviewというだけあって、経営学研究をつまみ食い的に俯瞰的に議論するという、今までにない経験ができたことでした。これは僕に限らず日本の経営系の大学院生ではよくあることだと思うのですが、基本的には指導教員ー学生間のapprenticeshipが前提となっているので、院生は指導教員の思考法や研究領域、方法論に多大な影響を受けることと思います。これは良い面も勿論あるのですが、他の領域の考え方に触れる機会が少なく、受け継がれた思考法や方法論にとらわれすぎてしまうという欠点もあります。経営学がある程度解釈学的な側面を持つのだとすれば、物事の解釈のための道具が一つか二つしかない、というのは非常に不幸なことだと思います。


・Innovation & Entrepreneurship (3時間半×7回、タームD)
- Reading: 論文6~9本
- Assignment: readingをもとに研究アイディアのレジュメ
- Final exam or paper: readingをもとにしたプレゼンテーション(自由課題)

- 内容: これも同じくRajshreeによる授業ですが、こちらはもっと彼女の専門領域に寄った、industry evolutionやentrepreneurship系の授業です。フィールドはmanagementに限らず、labor economicsやIO、あるいはmarketing系の論文も読みました。彼女のことを尊敬すべき点は多々あるのですが、一番凄いと思うのは、自分がこれまで培ってきた経験に彼女がほとんど縛られていないことです。研究のベースはあくまで彼女が興味を抱いた現象の謎であり、それに最も適した方法論や理論的枠組みを探して当てはめるという、やろうと思ってもなかなかできないことをずっと続けています。これは、彼女の師(直接の師ではありませんが)の一人である、Steven Klepperの影響だそうです。だからこそ色んなフィールドの研究者と接点があるし、いろんなタイプの院生が彼女のもとに集まるし、それが結果としてまた彼女のフィールドを拡げる、という好循環になっているんだろうと思います。


・People & Performance (3時間半×7回、タームC)
- Reading: 論文4,5本
- Assignment: 全論文についての要約+研究アイディア
- Final exam or paper: 自分のresearch proposalの発表

- 内容: こちらの授業は少々毛色が違って、”純” economistの先生によるtop management系の論文を読む授業です。僕の専門や関心とは大きく違っていたのですが、僕が今まで読む機会のなかったタイプのeconomics系トップジャーナルに掲載されている素晴らしい論文を沢山読み、それについて議論するというのは貴重な経験でした。ただ、同時にこの授業は、一年を通じて精神的に一番しんどい授業でもありました。assignされた論文の全要約を毎週書かなければならないというタフさもそうですが、それより何より、受講者が僕ともう一人しかいなかったからです。しかもこのもう一人は、一学年上のアメリカ人の学生で、僕の目から見てうちのスクールで一番賢い学生でした。彼とはそこそこ仲が良いのですが、喋るスピードがとにかく速く、頭の回転も早いので、授業では先生と彼の議論のスピードに全くついていけず、疎外感を感じてばかりでした。議論に置いて行かれるとか的外れなコメントを言ってしまうといった経験は今までにも勿論ありますが、ここまで屈辱的な思いをしたことは今までなかったですし、授業の日の夜はよく眠れないというのが毎週続いたのも、この授業が初めてでした。


・Econometrics (1時間15分×週2回+TA session、タームC・D)
- Assignment: 2週の1回くらいの宿題
- Final exam or paper: 中間及び期末試験

- 内容: 秋学期に引き続き、econometricsの授業です。前半はtime series、後半はnon linear regressionとpanel dataでした。これは何といっても、前半のtime seriesの方についていくのが本当に大変でした。中間試験で平均点以上を取れたのは奇跡的だと思います。



以上の他にも、秋学期にもあったStudent presentation seriesとCross diciplinary workshopは変わらず続いています。春学期は秋学期よりずっと忙しく、結構しんどい時期もあったんですが、今振り返ってみれば、よく大学院留学経験のある方がおっしゃられるような、「”地獄”のような経験」というほどではありませんでした。これは僕のスクールのコースワークがヌルいのか、はたまた僕が手を抜いていたのか(そんなつもりはありませんが)、それはよくわかりません。あるいは、肉体的な忙しさというより、精神的な部分の自己管理の方が重要だということかもしれません。

それから、僕がすでに4年間日本の大学院で学んでいて、論文を読む力などがある程度ついていたことも大きかったと思います。研究のイロハもわからず、加えて英語もついていけない、という二重苦では、一年目を乗り切るのはかなりしんどかったと思います。とりわけ博士課程の留学を考えている人にとっては、少なくともどちらかをある程度克服したうえで渡航した方が、比較的スムーズに(といってもしんどいですが)留学生活を送れるかもしれません。